価値の再発見によって 切り開いた許皓の 幸せなシルクロード
尚州地域名士 許皓
慶尚北道尚州にある咸昌は、昔から伝統の絹織物で有名な地域です。蚕の繭と絹は時代の流れとともに忘れ去られましたが、新たな旋風を巻き起こして伝統の絹織物を広めた絹職人・許皓さん。他人が行かない道を自分だけのやり方で進み、幸せなシルクロードを切り開いた彼の物語をご紹介します。


価値の再発見、不良繭から生まれた高級絹織物
咸昌は絹織物を伝統方式で生産している韓国唯一の地域です。咸昌産絹織物の地位を受け継いでいる許氏絹織物の代表取締役・許皓さんは、伝統の絹織物の隠れた価値を見つけるために努力してきた人物です。
「咸昌は養蚕を営む農家が多く、絹市が立った町です。母の実家は代々蚕業と絹織物を営んできたので、母親を手伝いながら5代目として家業を継ぐことになりました。」
絹織物は絹糸を伝統方式で製織した高級織物で昔からその価 値が高かったのですが、1980年頃からナイロン繊維の流行を受け絹織物の市場は大幅な縮小を余儀なくされました。そこで彼は不良とみなされた「玉繭」に注目しました。一つの繭の中に 二の蚕が入っているため、玉繭から繰り出される玉糸は糸が もつれ合い小さな玉のような節ができたもので、安価な商品でした。
「新しい道を探っていた時に、玉糸の節を結び目の模様に見立てようと発想の転換をしたことで、絹織物の世界へと導かれていきました。」「新しい道を探っていた時に、玉糸の節を結び目の模様に見立てようと発想の転換をしたことで、絹織物の世界へと導かれていきました。」
試作品を作ったら大成功でした。半額以下だった不良品が一般の絹糸より高く売れ始めました。従来になかった新鮮さが予想外の反応を起こし、まさに価値の再発見が生み出した奇跡でした。
無になり手放してから大きく満たされた幸福
玉糸の成功により多くのものを得ました。しかし、許皓さんは最高潮に達したところで仕事を止めることにしました。結婚当時、元手ができたら楽な仕事をしようと夫人と約束していたからでした。
「3ヶ月間楽な仕事を探し回りましたが、皆から幸せな仕事をしているのにと言われ、考え直し妻に話しました。一生、蚕業を続けようと、代わりにこれからはお金のことは考えずにいいものを作ろうと約束しました。」
視線を変えたら、それまで見えなかったことが目に入ってきました。捨てられた織機や品物が新しく見え、ゴミのように思われた昔のものを集めたら小さな博物館ができました。横糸と縦糸の様々な組み合わせや実験によって、これまでなかった新しい絹織物が100種類以上も誕生し、7年にわたる挑戦の結果、柿渋染めにも成功しました。伝統を継承・発展させた功績が認められ、2013年には慶尚北道最高職人(繊維加工分野)、2018年には慶尚北道文化賞(文化部門)を受賞しました。
「絹織物は私の全てで、始めであり終わりであります。仕事を捨てて考えを改めたら、全てが違うように見えてきて本当の幸せを見つけることができました。絹織物のお陰で見つけた幸せな人生です。」
ふと風に揺れる絹地が、人生を絹織物とともに歩んできた彼のシルクロードに見えてきます。

機械化時代において伝統方式を基盤にする許氏絹織物の競争力とは?
時代の流れとともに多くの部分が機械化されましたが、私達はまだ伝統的な紡錘を使って絹織物を作っています。その理由は水に濡れた絹糸で横糸を、乾いた糸で縦糸を交差して製織するからです。このようにすれば横糸と縦糸が密着して堅固な組織と柔らかい質感を得ることができます。また、絹織物を引っ張った時に横糸と縦糸が 偏ることもほとんどなく、濡れた横糸と縦糸の交差点が曲がって水に濡れても変形などがありません。これが許氏絹織物の最大の競争力です。紡錘を使うことは不便でもありますが、そこに莫大な価値があるので、どんなに先端機械が 優れていると言っても使うことはありません。伝統方式にこだわることがむしろ優れた高品質の絹織物を作り出す競争力になっているのですから。

柿渋染めの成功までに長い時間がかかりましたが、最後まで天然染色を諦めなかった理由は?
7年にわたる挑戦の末に柿渋染めにやっと成功しました。絹織物は動物性なので植物性の柿渋では染めることができないというのが通説でした。実は柿渋染めに挑戦して2年経った頃には諦めようとも思いました。しかし、自分が今、尚州の特産物である「三白(干し柿・蚕の繭・米)」のうち、二つを組み合わせようとしていたことに気づきました。それからは何が何でも成功するまでやり遂げようと決心しました。尚州「三白」の二つをどうしても融合させたい気持ちでいっぱいでした。失敗を繰り返すうちに、ある瞬間から柿渋の変化や発色過程に気候の影響を受けることが分かり、ノウハウを習得するようになりました。それからは染色だけではなく、色々なやり方で模様を作ったり、玉ネギの皮など様々な材料を使うようになりました。

絹織物が文化観光コンテンツとして持つ意義とは?
咸昌産絹織物の最大の価値は、伝統が受け継がれてきた地域である咸昌を代表する唯一の伝統素材ということです。特に、スローシティや咸昌絹フェスティバルなどは尚州の咸昌地域を代表する商品として地域の広報に大いに貢献しています。「尚州スローシティ」に指定される前に国際スローシティ連盟の調査団が訪ねてきた時も、伝統の絹織物が生きている街であることを強調しました。また、2013年の大韓民国シルクロード探検隊の訪問や2014年の咸昌村美術プロジェクトによる絹芸術村作りなどから伝統の絹織物産業が文化的に解釈できることを十分確認しました。このように絹織物は産業の枠を超えてファッション、文化、芸術などと融合して新たな価値に発展しており、これを通じた文化観光コ ンテンツとしての意義も一層大きくなっています。現在、大韓民国韓服振興院を咸昌に建てていますが、これもまた伝統の絹織物が生きている町だからこそ可能なことです。絹博物館を中心に絹テーマパーク、咸昌絹フェスティバルなど関連の文化観光コンテンツも増えています。自分がよく知っている職業が地域を変えていくと思うととても嬉しいです。


織物工場と展示場の解説付き観覧
許氏絹織物の建物の1階には糸車、糸枠、玉巻き、座繰り、自転車を改造した糸車、織機など絹織物の製作機械や関連する品物がたくさん展示されています。職人の手あかで磨かれてきた道具を直接手で触れることができ、許皓さんの説明を聞きながら観覧することができます。現在、絹織物を生産している工場に行って伝統の絹織物生産工程を見学してみましょう。

絹の機織り体験
一匹の絹織物は蚕の繭から糸を紡ぎ、糸枠に巻く、糸巻き、織機で織る、1次乾燥して蒸す、脱水・乾燥、染色、アイロンの過程を経て仕上がります。このうち、昔ながらのやり方で糸車を使って蚕の繭から糸を紡ぐ体験や織機で絹織物を作る体験ができます。

絹織物の天然染色体験
許皓さんが数年間の実験の末に成功した、絹織物の柿渋染め体験も用意されています。彼が開発したオリジナル技術で絹織物を柿渋染めし、世界に1つだけのオリジナルスカーフを作り自分だけの個性を生かしたコーディネートを楽しんでみましょう。
- 染色体験:
- 小サイズ
- 20,000ウォン
- 大サイズ
- 40,000ウォン
- 小サイズ
名士おすすめの名所

咸昌絹博物館
咸昌絹博物館には繰糸から織機で製織する全ての過程を人形を使って演出・展示されており、絹織物の歴史や咸昌産絹織物の特徴、製織などが一目で分かります。すぐ隣には絹テーマパーク、慶尚北道蚕糸昆虫事業場で運営する蚕昆虫体験学習館と蝶の生態園、天然染色を体験できる工房などもあります。
- 住所:
- 慶尚北道尚州市咸昌邑ムウン路1593
- 電話:
- 054-541-9260

咸昌アートロード
咸昌で行われた村美術プロジェクト「咸昌イェゴウル(昔の村):錦上添画」から生まれた芸術作品が咸昌の4つのエリアの道端に展示されているため、これらのアートロード探訪を楽しめます。絹をテーマにした咸昌駅が「錦」、伝チョンゴリョンガヤ古寧伽倻王陵のあるチングレミ村が「上」、咸昌伝統市場の一帯を「添」、昔の造り酒屋があった跡地を「画」に決め、それぞれのテーマで作品が展示されています。
- 住所:
- 慶尚北道尚州市咸昌邑伽倻路31
- 電話:
- 054-5410-7814